* フランス大統領選第一回投票の分析---ルモンド社説より(後半) 

さて,フランス中から注目されていた中道派UDF党首,フランソワ・バイルの動向。第一回投票でバイルを支持した有権者たちの票が喉から手が出るほど欲しい,サルコジとロワイヤル陣営。ところが2人の熱いラブコールにも関わらず,25日,バイルは『 決選投票ではサルコジもロワイヤルも支持しない 』と表明。(でも会見では,かなりロワイヤルびいきのニュアンスが感じられました。)詳しい内容は次回で扱うとして,今日は前回に引き続き,ル・モンド社主コロンバーニ氏による社説の後半部分です。
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 『 二重の勝利
(後半)
ル・モンド社説 |2007/04/23付 | J.M.コロンバーニ著
"Double Victoire"  Le Monde | Édito par Jean-Marie Colombani

ルペン主義(ルペニスト)の相対的消滅,そして独立した中道派思想の出現により,2つの本質的な問題が浮上した。すなわち,有権者を籠絡しようともくろんだニコラ・サルコジのきわめて右翼的な演説は,彼が大統領になった暁には,その代償が非常に高くつきはしないだろうか?そしてそれは,今や彼の常套句となった『 (国民の)団結 』を実現するどころか,むしろ(国民の)溝を決定的に深めるだけではあるまいか?中道派は,彼らの伝統的要素である中道右派思想に妥協のない抗議姿勢を加味し,改革路線を求める一部の緑の党( * 左派の環境保護推進派 )と社会党支持者の声をも取り入れることで,その存在を際立たせた。しかし後者は,左派の候補者( *ロワイヤルのこと )が社会党に変革をもたらす推進力となり得るだろうか?

それに対する答えは,日曜日の夜( *第1回投票の結果発表時 )以降の両候補者を見れば,自明であろう。すなわち,ニコラ・サルコジは”左派的”な演説に切り替え,あらゆるカテゴリー層,特に社会的弱者を”守る”ことをマニフェストの中心に据えた。セゴレーヌ・ロワイヤルはより一層,”力強さ”を強調している。それは今,彼女が最も必要としているものであり,また彼女自身が体現したいと望んでいるファクターでもある。つまり,この両者の顔が,いわば逆転したようなものだ。

ニコラ・サルコジは自身の過度な右翼的傾向を国民に忘れさせ,彼のいわば血縁でもある伝統的中道派の方向を目指さなければならない。彼には”アンチ・サルコジ運動”(*訳注①)に対抗する術(すべ)があるのだ。状況はセゴレーヌ・ロワイヤルにとってはさらに厳しい。サルコジに勝利するためには,有権者をその両端からたぐり寄せる必要がある。まず,中道派に流れた生粋の改革主義者たちを再び取り込むこと。そして,その大多数が右派に魅了されている大衆階級をも説得しなければならない。その多くはロワイヤルの可動性次第だ。しかし今の段階では,ロワイヤルから中道派支持者に理解を求める努力は全くうかがえない。いずれ国を統治すべき者ならば,最も優秀な人材でまわりを固める用意があることを示すべきだ,とはロワイヤルは思っていないようだ。この観点から見れば,改革主義が争点となる大統領選でドミニク・ストロス=カンの役割と立場(*訳注②)がどうあるべきかは,誰の目にも明らかである。

さらにやっかいなことに,フランソワ・バイルは何よりもまず,バイル支持者の票の価値を(決勝投票でサルコジとロワイヤルに利用されないように)消滅させてしまう可能性が高い(*訳注③)。なぜなら彼は,自分自身を尊大極まりない地位に位置付けようとしているからだ。つまり,彼は次回の大統領選をすでに視野に入れているのだ。ならば彼は社会党の候補者( *ロワイヤルのこと )を絶対に擁護しないだろうし,あわよくば,勝利に酔うニコラ・サルコジに拮抗する最大反対勢力として左派に取って代わろうとするだろう。

(決選投票を目前に控えた今回の)議論は,フランスの国境を越えて広く関心を集めている。フランスの声は,再びその重みを取り戻すことができるだろう。我々がこの新しい世界に順応するのに遅れを取ったのは疑いようがなく,一部の国民が悲嘆にくれるのも無理はない。しかし,我々の”モデル”を近代化することができれば,新たな力強い影響力を得ることができよう。我々の2人の候補者が,力強さと団結,経済を社会をそれぞれ調和させようとしているのだから。

それがフランスが抱える問題の核心である。国民が奮起し,民主主義的で,行動を起こすべく覚悟を決めたフランスは,まずヨーロッパに,そしてそれを通して世界へと,伝えるべきメッセージがあるだろう。先日4月22日にフランス国民が表明した時と同じように,この現象が粛々と続くよう願わずにはいられない。

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この社説は第1回投票の翌日,そしてフランソワ・バイルが例の『 決勝投票ではサルコジもロワイヤルも支持しない 』と表明した日よりも前に書かれたものです。こうして読んでみると,コロンバーニ氏のバイルに対する推測はさすがのものですが,バイル自身は会見ではサルコジを厳しく批判し,ロワイヤルには甘い,というかんじでした。バイルさんはやっぱり近親憎悪なのか(もとは同じ党にいたわけですし),サルコジの方がもっとキライみたいです・・・。

 キーワード & 訳注 
*①アンチ・サルコジ運動
・・・ニコラ・サルコジの非常に厳格で右翼的でさえある言動や,彼が推進するアメリカ的ネオリベラリズムに対する一種の政治的アレルギー反応とも言える現象。”Tout Sauf Sarkozy”(サルコジ以外なら誰でもいい),略して”TSS”(テー・エス・エス)と呼ばれる。
*②ドミニク・ストロス=カン(DSK)の役割と立場
・・・ストロス=カン(以下DSK)は社会党の重鎮,いわゆる”エレファント”のひとり。DSKはフランスの社会経済を向上させるためには社会党自身も変わらねばならず,社会的妥協を見いだす必要がある,と説いている。彼の考えでは,たとえばグローバリゼーションは決して悪ではなく,むしろフランスの経済復興にとってチャンスである。改革路線推進派のDSKは,大統領選で苦戦するロワイヤルにとって必要不可欠なブレーンとなるはずであり,決勝戦に向けてさらに積極的な役割を果たすべきだ,とコロンバーニは考えている。
*③バイルが自分の支持者の票の価値を無に帰す
・・・決勝投票では,第一回投票で19%近くもの支持を受けた中道派バイルの票のゆくえ,つまりサルコジ,ロワイヤルのどちらにバイル票が流れるかが最も注目されている。バイルは自分の支持者に向けて公式なメッセージを発表し,バイル支持者が決勝投票で誰に投票すべきか示唆することが出来る。(それに従うか否かは支持者の自由だが,通常はそのメッセージの影響力は非常に大きい。)ところが,バイルはその選択を支持者に委ねることで,バイル支持者の票を均等に散らすことができる。つまり,バイルが故意に決断を避け,あいまいな態度に徹することこそが,バイル票をサルコジ・ロワイヤルのどちらにも有利に作用させないための最良の方法である。

2 Comments

ヒコ  

コロンバーニ氏はさすがですね。しかし、フランス的なるものは本当に時代遅れになってしまったのだろうか・・・僕には日本国憲法第9条と同じように、21世紀にこそ最も重要な価値があると思いたい・・・アメリカ的なるものは、遠からず地球を破滅に導くと思うなぁ・・・

2007/05/03 (Thu) 23:04 | EDIT | REPLY |   

bébépiupiu*  

i-263 to : ヒコさん

ヒコさん、こんばんは!
お返事遅れてしまってごめんなさい~。

コロンバーニ氏の社説はいつもとても読み応えがありますが、
訳者泣かせです(笑)。

わたしも9条は日本が世界に誇れる、”良心”だと思っています。
『 美しい日本 』をうそぶくならば、
まずは戦争と武力放棄をうたった9条を守ってから、言ってもらいたいものですよねi-230

2007/05/05 (Sat) 18:39 | EDIT | REPLY |   

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