フランス大統領選その後--- セゴレーヌ・ロワイヤルの敗因 / リベラシオン紙

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『 ねえパパ,ボクも大きくなったら大統領になるんだ!』 ( 決選投票の投票所で列を作る有権者たち )

激しい大統領選を戦い抜いた後,家族でラグジュアリーなバカンスを楽しんでいたサルコジさん(新大統領!)ですが,『 その豪遊の費用はどこから出ているんだ! (まさか国費じゃ・・・)』と非難続出,しかもフランス各地でアンチ・サルコジ派による暴動が起きていることもあり,予定を切り上げてフランスに帰ってきました。本人は,『 クルーザーやマルタ島の別荘は友人が好意で貸してくれたもので,非難されるいわれはない 』とプリプリ怒っていたけれど,その”友人”こと実業家が経営する企業は,サルコジが内務大臣時代にほぼ毎年,国防省などから大規模な公共事業を請け負っていたことが判明。ちなみに先ほどフランスのラジオニュースで知ったのですが,ロワイヤルさんは,大統領選で掲げた『 国会議員の兼職廃止 』のマニフェストを自ら実行するために,今回の国会議員選挙に出馬しないことを表明したそうです。ショックを受けた支持者たちは『 セゴレーヌがいない国会議員選挙なんて! 』と,さっそく署名集めに奔走しているとか。・・・というわけで,今日はリベラシオン紙のジョフラン氏の社説から。

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 『 再構築 』
リベラシオン紙 | 社説 | 2007/05/07付 | ロラン・ジョフラン著
"Refondation" Libération | Éditorial | Laurent JOFFRIN

いつか再び,さくらんぼの実がなる季節はめぐってくるだろう。だが,まずはこの(大統領選の)敗北を前に,衝撃と悲しみを感じずにはいられない。新しい政治の誕生を信じてこれほど情熱的に戦われた大統領選だっただけに,失望は大きい。フランスはひとつの大きな決断を下した。そのプロセスには文句の付けようがない。今回の大統領選は尊敬に値し,情熱的で,市民のためのものであったという意味で最高レベルだったと言えよう。ニコラ・サルコジ氏は合法的に認められた大統領であり,彼は違法な方法で選出されたのでもなければ,国民から名実ともに任命された大統領なのだ。そして,(サルコジを選ばなかった)もうひとつのフランスは,次回の国会議員選挙に希望を託すだろう。それまでの間,その”もうひとつのフランス”は,胸を締めつけられる思いで,だが希望を捨てずに,今回の敗北を記憶に刻むことだろう。

今回の勝利に右派が有頂天になるのも当然だ。それは,巧妙な方法で常に国民を欺いてきた従来のシラク的政治思想ではなく,本来の右派的思想の勝利だった。サルコジは,フランス共和国にとって危険因子だろうか?---それはあまりにも勘ぐり過ぎというものだ。確かに新大統領の政策は,時には目にあまることもあるだろう。だが,今のニコラ・サルコジには,自分の望みどおりにフランスを保守的リベラリズム(自由主義)に導く正当な権利があるのだ。サルコジの勝利は,彼の挑発的なまでの率直さによる。彼が掲げる”(前政府やド・ゴール主義との)断絶”は,たとえ不当?なまでに精力的な手段( * 訳注① )を用いてでも20年間に及ぶフランスの停滞から抜け出したいと願った53%もの有権者に支持された。つらい事実だが,それが国民の意思なのだ。サルコジは,スカートをはかないサッチャーだろうか?---覚悟しよう。

人々はセゴレーヌ・ロワイヤルの失態を糾弾するだろう。すでにドミニク・ストロス=カン( * 訳注② )が彼女を容赦なく批判したように,非難の口火は切って落とされた。確かに失敗はあった。我々は紙上で毎回のように彼女の失策を指摘してきた。ロワイヤルの戦い方は最初から優柔不断であり,小さなへまや失言を繰り返した結果,社会党の内部からさえも彼女の能力不足が指摘され,批判が高まった。ロワイヤルは当初,世論でサルコジに勝っていたからこそ,社会党公認の大統領候補に選出されたのだ。ところがサルコジが反撃に出たとたん,世論はサルコジに味方し,ロワイヤルはサルコジの後を追う形になってしまった。ロワイヤルはさいわいにも大統領選の終盤で形勢を立て直し,第一回投票では非常に良いスコアを獲得した。しかし,いかんせん決選投票で勝利するにはあまりにも時間が短すぎた。彼女は中道派思想にも明確な歩み寄りを見せ,その結果,4月22日( * 第一回投票 )には(フランソワ・バイル率いる)中道派支持層の票を一部取り込むことができた。 だが,世論は動かなかった。例のサルコジ対ロワイヤルの公開討論の時点では,この社説の著者をはじめ評論家達は,状況はロワイヤルに有利になると判断した。ところが実際は,討論会で見せたロワイヤルの突然の豹変---つまり,その攻撃的な態度は,誰に投票するか決めかねていた有権者に不安を抱かせてしまったのだ。そしてさらに悪いことに討論会の翌日,我々は気付いてしまったのだ---ロワイヤルが最も激しくサルコジを攻撃した争点( * 訳注③ )が,実は不正確な情報に基づいたものに過ぎなかったということに。だがロワイヤル自身は今回の敗北にも楽観的であり,引き続き戦いを続けるつもりだ。幸運を---。

いずれにせよ左派全体が,このような”ずれ”をしっかり自覚すべきであろう。社会党内では,大物政治家らが自らの野心を優先させたために党が分裂状態に陥り,党の政治的教義は改革されるどころではなく,大統領選は最初から足枷をはめられたも同然だった。2002年4月21日( * 訳注④ )の失敗から教訓を引き出すこともなく,目新しい候補者を据えるだけで勝利できると錯覚した。上昇気流に乗る中道派への配慮を怠った。内部からの危機と外からのグローバリゼーションの波によって変貌したフランスが抱える新たな問題に熱心に取り組まなかった。今世紀初頭にふさわしい,新たな社会的・経済的政策を模索しなかった。オルターグローバリゼーション( * 訳注⑤ )改革に十分な理解を示さず, その中の最良の政策をマニフェストに盛り込まなかった。そして極左の台頭により,左派そのものが自殺的壊滅を強いられてしまった。---その間にニコラ・サルコジは巧妙に策略をめぐらせ,いかに多くの有権者から支持を得られるかじっくりと対策を練り上げ,右派どころか強硬な中央主権主義者たちにまで飽くことなくリベラリズムの原理を刷り込んだのだ。

今日こんにち,左派は再構築が必要とされている。今回の敗北を契機に,想像力をめぐらせ,近代化を推し進めるべきであり,それは斬新かつ現実主義的なものでなければならない。我々リベラシオン紙としては,今日からただちにその作業を進めるつもりだ。自由競争の原理は確かに勝利した。だが,連帯(ソリダリテ)と公平を尊重する価値観はまだ健在だ。それを土台として我々は構築を進めよう。さくらんぼの季節は,またきっとめぐってくる---今はまだ種でしかないけれど。さあ,勇気を出そう。

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 キーワード & 訳注 
*①不当?なまでに精力的な手段
・・・”?”表記は原文どおり。サルコジがフランスに導入しようとしている新自由主義( neoliberalism,経済面)や新保守主義( Neoconservatism,政策面)のこと。
*②ドミニク・ストロス=カン( Dominique Strauss-Kahn)
・・・イニシャルからDSK(デー・エス・カー)と呼ばれる。社会党の重鎮”エレファント”のひとり。元財務大臣であり,フランス経済復興のためにはグローバリゼーションさえ厭わない改革主義者。現役の社会党政治家の中で最も実力があるとされる。党公認の大統領候補を選出する党内選挙では,絶大な人気を誇るロワイヤルを前に,ロラン・ファビウス(元首相)と共に大敗を喫した。ロワイヤルは大統領選の終盤で彼の実力を買い,『 大統領になったあかつきにはDSKを首相に任命する 』可能性を示唆していた。国民的人気者になったロワイヤルを快く思っていないDSKは,”政治的手腕に長け党内一の実力を誇る自分こそ大統領にふさわしい”,と5年後を視野に入れている。
*③ロワイヤルが最も激しくサルコジを攻撃した争点
・・・公開討論でもっとも白熱した議論が展開されたのが,障害児の就学についてであった。ロワイヤルは現政府が,① 障害児就学プログラム『 Handiscol 』を廃止し,さらに ② 障害児のための教員補佐制度も廃止,その結果,③ 5年前にくらべて障害児の就学数は半分以下に減少した,とサルコジを激しく非難。サルコジに『 マダム・ロワイヤルは大変な剣幕だね。(中略) 大統領を志す者なら冷静であってほしいものだ 』と言わしめた。実際は,① 『 Handiscol 』は廃止されてはいないが,すでに適用期限が切れている。代わりに2005年2月11日法により,障害児は学区内の学校が受け入れることが義務付けられた。② 学校が受け入れた障害児の数は5年前にくらべて2倍近くに増えている。③ 教員補佐制度は,それに代わる同等の制度によって継続されている。---すなわち,ロワイヤルの攻撃は根拠なきものであった。( 参照: France2ニュース,リベラシオン紙 )
*④2002年4月21日
・・・前回(2002年)大統領選の第一回投票日。シラク(当時の大統領)とリヨネル・ジョスパン(社会党・当時の首相)が決選投票に進むと誰もが信じていたが,ジョスパンがルペン(極右FN党)にまさかの敗北。シラクVSルペンの対決に持ち込まれた。ジョスパンは即日,事態の責任をとり,劇的な政界引退を表明。この予想外の展開にフランス全土は『 極右に政権を渡すな 』と立ち上がり,その恩恵にあずかったシラクはルペンに大差(82%)で圧勝し,大統領に再選された。( 以上,以前のキーワード解説より抜粋)
*⑤オルターグローバリゼーション
・・・グローバリゼーションとは別のアプローチを推進する運動。つまり,ネオリベラリズム(新自由主義)や経済理論を優先するのではなく,人道的価値観や環境保護に重点を置いた世界発展を模索する社会的運動。フランスでは左派ジョゼ・ボヴェがオルターグローバリゼーションの旗手として国民的人気を誇る。ボヴェおじさんは,マクドナルドを破壊したり,遺伝子組み換えトウモロコシを畑から引き抜いたり,と元気に(?)活動しています。(有罪判決を受けたけれど・・・)

6 Comments

ちぇぶ  

ロワイヤルさんすごい批判されてますね。。。結局のところどちらが選ばれたとしてもそれぞれに評価され、批判され、、なのでしょうね。サルコジさんに頑張ってもらいたいですね。。。

2007/05/14 (Mon) 10:42 | EDIT | REPLY |   

さちこ  

いつもこちらで情報をいただいてます。在仏3年目のものです。
セゴどうなっちゃうんでしょうね?でも結局DSKでも誰が出ても
PSの内部分裂みれば無理だったと思うんですが。。。。
これからもセゴには頑張ってもいらいたいですよね!

2007/05/14 (Mon) 15:41 | EDIT | REPLY |   

bébépiupiu*  

i-274 to : ちぇぶさん

そうですね,
やっぱり負けた方は,責任を追及されるだけに大変ですよね(T-T)
もちろん勝った方も,これからは”国家”という重責を背負うわけですけど・・・。

リベラシオン紙はセゴレーヌさんを応援していたので,
この記事は自己批判,というかんじでしょうか。
なんだか悲壮感ただよってますけど・・・i-241

2007/05/14 (Mon) 23:58 | EDIT | REPLY |   

bébépiupiu*  

i-275 to : さちこさん

さちこさん,はじめましてi-265

読んでくださっていたなんて,とってもうれしいです(^-^*)
在仏3年目でいらっしゃるのですね!

DSKのセゴさんへの批判は,『 ちょっと大人げないな 』・・・と思ってしまいますi-230
いくら彼の実力が党随一でも,
社会党の枠を超えて,国民的人気を得られないことには
サルコジの対抗馬足りえませんよね・・・。

PSの分裂危機については,次回記事にするつもりですi-236
励みになるメッセージ,どうもありがとうございました!

2007/05/15 (Tue) 00:02 | EDIT | REPLY |   

さちこ  

お返事ありがとうございます。次回の記事楽しみにしています!

2007/05/15 (Tue) 03:04 | EDIT | REPLY |   

bébépiupiu*  

i-257 to : さちこさん

さちこさん,ご丁寧にありがとうございます(^-^*)
ほんと,とっても励みになりますi-265

次回の記事ですが,訳の前に
前置きを書いていたら,なんだかそれだけですごく長くなってしまって・・・。

あまりにも長くて読みづらくなりそうなので,
とりあえず,”前置き”だけ先にアップしようと思います。
せっかくさちこさんにお知らせしたのに,
段取りが悪くてごめんなさい・・・i-241

2007/05/16 (Wed) 01:42 | EDIT | REPLY |   

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