* ド・ゴール主義への裏切り,そして永遠に延期可能な禁固刑 (ルモンド社説)

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横顔は確かに似ている・・・?

今回紹介するル・モンド紙の社説は,以前こちらで紹介したサルコジ大統領の暴言を前提(のひとつ)としています。ご存知ない方は,まずそちらから読んでいただくと理解が早いかもしれません。そしてサルコジさんが大統領に就任後,初めての地方選挙(前回から7年ぶり)は3月9日と16日!

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『 常軌逸脱 』 
2008/02/25付 | Le Monde | Éditorial
"Extravagances"
 ルモンド紙  |  社説
* (*)は訳者による注釈

2月22日金曜日,ニコラ・サルコジはパリのアンヴァリッドで,故ドゴール将軍の記念館”イストリアル”【(l')Historial】の開館式典を催した。「ゴリズム(ドゴール主義)が今でも我々にとって意義を有するのは,それが普遍的な価値を持つ人間と政治を示唆してくれるからである。そしておそらく,我々の国がアイデンティティーの深刻な危機に直面している今,それは未だかつてないほど深い意味を持つであろう」と,この機会に際しフランス共和国大統領は強調した。彼が間違っているなどと,誰が非難できるだろう?

しかし,悲しいかな。国家元首サルコジが懸命に行っていることと言えば,その発言にせよ行動にせよ,第五共和政の創始者(*= ドゴール将軍)が宿したこの高尚な思想を否定することばかりだ。そして,度重なる世論でフランス国民がサルコジ大統領に突きつけた不信と否定的感情に対し,サルコジ自身がその裏付けを提供しているようなものだ。

確かにドゴール将軍は,言葉の持つ力を信じ,実際に甘言や非常に軍隊的なボキャブラリーさえも厭わなかった。それでも,激情に駆られた言葉や下品な罵倒は決して口にしなかった。先日行われた農業サロンで,サルコジ大統領は,握手を拒んだ一市民を公衆の面前で罵倒した。つまり,大統領という厳粛にして自制心を要する職務を具現するにしては,あまりにも自身の激情を制御できていないことを証明してしまったのだ。

すでにその前日,それは刑事罰政策の分野でも露呈されている。サルコジ氏は,破棄院(*日本の最高裁に相当)の長官に対し,確実な拘禁に関する法律(*注①)の即時適用を可能にするよう提案を求めた。それはすなわち,この新法に対し憲法院が下した(非常に)部分的な判断(*注②)をないがしろにするよう,フランスの最高司法裁判機関に明らかに示唆したということだ。彼が大統領選挙中に約束した,最も危険な犯罪者---特に幼児に対する性犯罪者---の確実な長期収監を実現したいというならば,納得もできよう。大統領に選ばれたからには,選挙中の公約を果たすことが政策政治の第一歩なのだから。

だが,強姦犯を,我々が社会体制を犯すことで罰することはできない。とはいえ,それがサルコジ大統領お得意の,常軌を逸したやり方のひとつであるのは確かだ。彼が内心どれほど苛立とうとも,フランス共和国の大統領は社会体制の守護神なのである。ところが彼は今,フランスの最高規範(*= 憲法)の第62条でその決定が”上訴の余地がない”と定められている憲法院をないがしろにせんとする,非常に危険な意志を露わにした。確かにトップ政治は,積極介入主義である。ニコラ・サルコジがこの伝統の継承を主張することは,間違いではない。しかし,熟慮に欠ける短期的な騒乱は,この限りではないのだ。そして,フランス共和国の社会体制を軽視するなど,なおさら許されることではない。この”確実な拘禁に関する法律”の制定は,実はこれは高等政治ではなく,非常に雲行きの怪しい地方選挙を目前に控えた大統領の選挙戦略である,という印象は拭えない。【完】

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 キーワード & 訳注 
*① 確実な拘禁に関する法律 ( Rétention de sûreté ) ・・・
未成年に対する殺人(謀殺あるいは故殺),拷問または残虐行為,強姦,誘拐,監禁または成人に対する一定の罪により15年以上の重労禁固刑に処せられた者が,刑期終了に際し,人格上の重大な障害により再犯の恐れが非常に高く特段の危険性が認められる場合は,禁固刑を延長することが出来るものとする。禁固の延長は要件を満たす限り何度でも更新可能であるため,たとえば15年の禁固刑により収監された犯罪者がこの法の適用により,一生涯,出所できないことも文言上可能である。ラシダ・ダティ法務大臣の名をとり,ダティ法( la loi Dati )とも呼ばれる。* 新法の全文→LOI n° 2008-174 du 25 février 2008 relative à la rétention de sûreté et à la déclaration d'irresponsabilité pénale pour cause de trouble mental (1)  
*② 憲法院による判断 ・・・
上記の法案につき,憲法院に対し,60名以上の上院(元老院)議員と60名以上の下院議員が連名で違憲審査の申し立てを行った。フランスの法律は原則として遡及効を認めない(民法第2条)が,当該法律は刑罰を重くするにも関わらず遡及効を有するものである。憲法院はこの”確実な拘禁”は「刑罰ではなく,確実な対策」であるとの見解を示しながらも,当該法律の遡及効を認めず,2008年以前に禁固刑に処せられた犯罪者には,この法律の適用外とした。(出所にあたり再犯の恐れが高いと判断された者については,電磁ブレスレットの着用や,専門家による継続的な措置,監視を認める。) よって,憲法院は当該法律の遡及性を無効とした以外は,この法律の合憲性をほぼ全面的に認めた。新法が人権侵害であると反対する議員や法曹らは,この法律が欧州人権裁判所の判例に反すると主張している。* 2月21日,憲法院が下した判断の全文は以下のとおり → Décision n° 2008-562 DC - 21 février 2008

8 Comments

DennyJohpp  

ゴーリストとは「名乗っている」だけだったわけで・・・。
ダティ法もプリントアウトして読んでいますが、EUのイニシアチブ
とる状態ではないかもしれません。

2008/03/11 (Tue) 08:37 | EDIT | REPLY |   

bébépiupiu*  

i-77 to : Dennyさん

> ゴーリストとは「名乗っている」だけだったわけで・・・。

そうですよね。

大統領権限の強化や実用主義,
フランスの国際的影響力を強めるという意味では,
サルコジさんは確かにゴリズムの(ごく)一部を継承しているけれど,
シラクさんのネオ・ゴリズムの方が
柔軟で,時代の急激な変化に対応しやすいと思います。


2008/03/16 (Sun) 23:53 | EDIT | REPLY |   

DennyJohpp  

>シラクさんのネオ・ゴリズムの方が
>柔軟で,時代の急激な変化に対応しやすいと思います。
老獪というか、現実的な対応していたと思います。
いまはどうだろう・・・、政権降りたら大変なことに
なるのではないでしょうか。いまのシラクさんどころでは
ないかも・・・。

2008/03/26 (Wed) 08:46 | EDIT | REPLY |   

bébépiupiu*  

i-77 to : Dennyさん

そうですね。
結局サルコジさんにとってゴリズムは
みずからの政策・言動を正当化する
大義名分に過ぎない気がします。

2008/03/30 (Sun) 18:57 | EDIT | REPLY |   

DennyJohpp  

みずからの政策・言動を正当化する
大義名分に過ぎない気がします。

だこーです。本物の(といっては失礼ですが)
ドゴール大統領は、私生活がスキャンダルとは
縁がなかったとか。

2008/04/11 (Fri) 08:55 | EDIT | REPLY |   

bébépiupiu*  

i-77 to : Dennyさん

> ドゴール大統領は、私生活がスキャンダルとは
縁がなかったとか。


そういえば,あの時代は
そんな悠長なコトしてる場合じゃなかったですものね!

私生活のスキャンダルといえば,
ミッテランさんもそういうことがありましたが,
彼の対応も,当時のメディアの対応もさすが”大人”でしたよね。
たとえ愛人がいようが,妻と別れて新しい恋人と暮らそうが,
公私混同せずに政治家としての務めを立派に果たしていれば
非難の対象にはならないのですよね。

2008/04/18 (Fri) 22:27 | EDIT | REPLY |   

DennyJohpp  

彼の対応も,当時のメディアの対応もさすが”大人”でしたよね。
たとえ愛人がいようが,妻と別れて新しい恋人と暮らそうが,
公私混同せずに政治家としての務めを立派に果たしていれば
非難の対象にはならないのですよね。

人によっては「開き直り」というコメントもありましたが
(・・・浅いなぁ)、公私の区別を明確にしていたのだな、
と思います。
イギリスではカーラ夫人が話題になっていたようで、それは
それでいいのでしょうが、それでいいのでしょうか?

2008/04/22 (Tue) 08:30 | EDIT | REPLY |   

bébépiupiu*  

i-77 to : Dennyさん

Dennyさん,こんばんは!

そういえば,フランスにいた時に
やたらと「どうしてウノ首相は私生活のせいで失脚しなくてはならなかったのか?」
と,何度も聞かれました・・・。
そこに,フランスと日本の考えの違いを垣間見た気がしました。

イギリスのタブロイド紙のスキャンダル好きは半端じゃないですものねえ。
その辺は,意外にもフランスは”お行儀がいい”ようですi-236

2008/04/25 (Fri) 01:44 | EDIT | REPLY |   

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