* フィルム・ノワールの傑作,J.P.Melville 「いぬ」 ( Le Doulos )


”この仕事に従事する者は,最期は野垂れ死ぬか,
体に銃弾を打ち込まれるか,だ”
 (シリアン)

Dans ce métier, on finit toujours clochard ou avec
quelques balles dans la peau.
( dit, Silien )


Le Doulos” (ル・ドゥロース)/ 邦題「いぬ」 (1962/110min) Jean-Pierre Melville

フレンチ・フィルム・ノワール界の巨匠,ジャン=ピエール・メルヴィル監督の名作。昨年末,幸運にもこの作品をスクリーンで観る機会に恵まれたので,記憶が薄れないうちに書き留めておきますね。最近はロメールやゴダール系ヌーベルバーグよりも,虚無的でハードボイルドな作品に傾倒しがちな管理人にとって,この「いぬ」という作品は,まさにど真ん中。ちなみに”犬”とは,警察のたれ込み屋を意味する隠語です。同じ意味で邦題にも使われた,2004年公開(日本では2007年)のオリヴィエ・マルシャル監督 【あるいは裏切りという名の犬】(原題:36 Quai des Orfèvres/警視庁)は,かつての仏フィルム・ノワールのまさに現代版といったところ。(しかも,【あるいは~】に出てくる,警察と通ずる犯罪者は,【いぬ】の主人公と同じく”シリアン”という名前!)---さて,この映画の主演,ジャン=ポール・ベルモンドと言えば,アンジー顔負けのムッチリくちびるに真っ黒に日焼けした顔,スタントマンいらずの強靭な肉体とコミカルな演技のイメージが(個人的には)強かっただけに,メルヴィル指揮下で演じたニヒルでスマートな一匹狼はとても新鮮でした。余計なものを潔く排除した作風,限りなく殺風景でありながら脳裏に焼きつく情景の数々,気味が悪いほどの静寂の中でひしひしと押し寄せる緊迫感,寡黙な男たちの固い友情。そして,シリアンがモリスに告げた「真相」は,果たして真実なのか,それとも---。答えは,観終わった人それぞれの胸に,それぞれの形で描かれることでしょう。そしてその不可思議な余韻こそが,この作品の最大の魅力かもしれません。

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 PV(宣伝VTR)のナレーションより :
Doule(ドゥール)とは,帽子を意味する。そして,その帽子を被る者を”Le Doulos”(ル・ドゥロース)と呼ぶ。シリアンは帽子を被っている。すなわち,暗黒社会に生きる者たちにとって,彼は”しゃべる”者,すなわち警察の密告者(犬)なのだ。誰もが,仲間の中に”犬”が潜んでいないことを祈るばかりだ。”Le Doulos”---それは嘘が引き起こす悲劇,純粋なミステリー,罠にはめられた男の物語である。

若き日のジャン=ポール・ベルモンド(Jean-Paul Belmondo)演じるシリアン。裏の世界の住人でありながら,警察の”犬”としても働く。知己のサリニャリ刑事と,犯罪仲間との友情の間で,その両方に仁義を貫こうとするが,誤解が破滅を導く。


名優セルジュ・レジアーニ(Serge Reggiani)が演じる,シリアンの旧友モリス・フォジェル(左)。モリスは親友シリアンを信じたいという思いと疑念の間で揺れ動く。右は銀行家のような風貌の,ふたりの犯罪仲間であり共通の親友ジャン。

ジルベール(名優ルネ・ルフェーヴル/René Lefèvreが好演)の死体を発見した暗黒街の大物ニュテッチョ( by ミシェル・ピコリ/Michel Piccoli)とアルマンは,宝石を回収できないまま車に戻る。濃い霧が立ち込める中,街灯が暗闇をぼんやりと照らす幻想的なシーン。


部下であるサリニャリ刑事を殺害されたクラン警視(右)( by ジャン・ドゥサイー/Jean Desailly)は,シリアンに仲間の情報を洩らすよう,言葉巧みに取引をもちかける。

シリアンに密告者としての役目を果たすよう迫るクラン警視と,仲間を裏切ることはできないシリアン。長回しの技法で撮影された名場面としても有名。ふたりの言葉による丁々発止の応酬は,実に10分近くに及ぶにも関わらず,観る者に息もつかせないほどの緊張感で迫る。


かつての恋人シリアンへの想いを再確認し,彼の親友モリスのために偽証を承諾するファビエンヌ( by ファビエンヌ・ダリ/Fabienne Dali)。シリアンは彼女をマフィア界を仕切るニュテッチョから解放し,この世界から足を洗う決意をするが---。

あらすじ (後半にネタバレあり)

暗黒社会に生きるシリアンは,同時に親友サリニャリ刑事(後に殉死)に情報を提供している。シリアンの親友モリスが刑期を終え出所した。モリスの妻は,彼が刑務所に収監されている間に何者かによって殺害されていた。窃盗仲間のジルベールを訪ねたモリス。シリアンを”誠実な男だ”と擁護するモリスに,ジルベールは「パリでは,そうは言われていないがな」と警告する。ジルベールが妻殺しの犯人だと確信したモリスは,そばにあったリボルバーで彼を銃殺する。その直後,暗黒街の黒幕ニュテッチョとその仲間アルマンがやって来る。ジルベールは彼らに頼まれて,盗品の宝石を解体していたのだ。モリスは宝石とリボルバーを奪い,間一髪で逃走する。

翌日,女友達テレーズの家に身を寄せていたモリスの元に,旧友シリアンが金庫破りの道具を届けにやって来た。初対面を装うシリアンとテレーズだったが,ふたりはかつて,サリニャリ刑事によって引き合わされたことがあった。モリスとその仲間レミは,テレーズが下見をした高級住宅街ヌイイの一軒家に強盗に入る。その頃シリアンは,テレーズを拷問し強盗先の住所を吐かせ,サリニャリ警部に電話をかける。モリスとレミは駆けつけた警察の罠にはまる。銃撃戦の末,サリニャリ刑事とレミは共に絶命し,レミを救おうとしたモリスも重傷を負い気を失う。

親友ジャンの家で目覚めたモリスは,シリアンに助けられたとも知らず,自分を密告した親友に復讐を誓う。その頃シリアンはジャンと共に,テレーズを事故に見せかけ始末していた。シリアンは暗黒街の大物ニュテッチョの経営するナイトバーで,かつての恋人ファビエンヌと再会する。しかし彼女は,今やニュテッチョの情婦となっていた。親友であったサリニャリ刑事が殉死した以上,もはや警察に手を貸したくないシリアン。しかしクラン警部の執拗な尋問と説得により,モリスの居場所を教えざるを得ない状況に追い込まれる。ついにモリスはジルベール殺害の容疑で,警察に身柄を拘束された。拘留所で実直な同室者カーンに出会ったモリスは,裏切り者であるシリアンの暗殺を依頼する。その頃シリアンはニュテッチョとアルマンを首尾よく殺害する。死体のそばに,回収した宝石とジルベール銃殺に使われたリボルバーを置く。盗品の配分をめぐる争いの末の相打ちに見せかけ,モリスによるジルベール殺害の罪をふたりに被せるために---。

釈放されたモリスと落ち合ったシリアンとジャン。シリアンはモリスに,「テレーズは警察のスパイであり,全てはお前を救うためにやったことだ」と説明,モリスは旧友の言葉を信じる。シリアンは,この世界から足を洗い,田舎で静かな隠居生活を送るつもりだと告げ,去ってゆく。しかし歯車はすでに狂い始めていた。そして,ひとりバーのカウンターに佇むジャンには,テレーズ殺しの証拠を掴んだ警察の追跡が刻一刻と迫る。

その頃,丘の上に建つ瀟洒な邸では,モリスから暗殺の使命を帯びたカーンが屋敷主シリアンの帰りを待ち構えていた。激しく降りしきる雨の中,何者かがエントランスに現れた。逆光に浮かび上がる,濡れそぼったトレンチコートに帽子を被った男の姿。間髪を入れず狙撃するカーン。だが,倒れ伏した男はシリアンではなく,みずから練り上げた暗殺計画を阻止すべくやって来たモリスだった。そこにシリアン自身が帰ってくる。モリスは苦しい息の下から旧友にカーンの隠れ場所を教え,息絶える。シリアンはついたてに向かって銃を連射した。ついたてが倒れ,仁王立ちのカーンが倒れ伏す。銃弾を全身に浴びすでに息絶えたかに見えたカーンだが,心ならずも誤殺したモリスの頼みを果たそうと,背中を向けたシリアンに執念の一発を打ち込んだ。

混濁する意識と戦うように,電話のダイヤルをまわすシリアン。受話器の向こうの恋人に,最期の言葉をささやいた。「ファビエンヌ---,今夜は会えない」 豪奢な鏡に映る自分の姿を見ながら,わずかに傾いた帽子を被りなおす。崩れるように倒れたシリアンの頭から,帽子が転がり落ちた。【完】

2 Comments

chebucheby  

かっこいい!!!
この映画見てみたいです。レンタルされてるかなぁ・・・

2008/04/21 (Mon) 21:13 | EDIT | REPLY |   

bébépiupiu*  

i-77 to : ちぇぶさん

ちぇぶさん,レス遅れてごめんなさい~(TAT)

> この映画見てみたいです

そう言っていただけると,レビュー書いた甲斐がありました~i-237
ほんと,カッコイイんですよぅ★
ミニマリズムの美学,とでもいうのでしょうか。。。
ぜひご覧になってくださいまし!

2008/04/25 (Fri) 01:38 | EDIT | REPLY |   

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