【ルモンド社説】 ”アマルガム”の誘惑 -- フランスにおける”ジプシー”問題

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違法キャンプの撤去作業を始めた警官に抗議する”ジプシー”たち

日本ではあまり馴染みのない、いわゆる「ジプシーの民」ですが、彼らは今でも欧州各地で数多く生活しています。現在は「ジプシー」という言葉は差別的表現とされ、フランスでは「旅をする民族」という表現が用いられるため、記事内でも「移動民族」として訳しています。また、今回のルモンド紙社説のタイトルにもなった「アマルガム」(amalgame)という言葉は、”意図的な混同”の意味を持ち、フランスでは社会・政治関連のニュースで非常によく使われる言葉です。今回の記事の訳を読んでいただく前提情報として、以下のように理解していただければ幸いです。

アマルガム : フランス国内で推定40万人いるといわれる、いわゆるジプシーと呼ばれる「移動民族」が起こした暴動を受け、フランス政府が、実際は彼らのうち95%がフランス国籍を持ち、3分の2が定住者であるにもかかわらず、彼らと、残り5%のロマ民族(主にルーマニアとブルガリアから流れてきた放浪の民)を故意に混同(=アマルガム)することで、彼らをまとめて排除する政策を打ち出そうとしていることに由来する。

ベルナール=アンリ・レヴィ(BHL)は、ルモンドに寄稿した「サルコジが犯した3つの過ち
」の中で、ジプシー問題に関するアマルガムを以下のように定義している。「フランス国内に不法滞在している外国人(一部のロマ民族)と、数世代前からフランス国籍を取得し、正当な権利を有し、故にすべてのフランス国民に適用される一般法の主体として拘束される市民とを混同すること」


”Gens du voyage : la tentation de l'amalgame”(原文)
  2010/07/29 | Éditorial | Le Monde |
 「 移動民族問題 : アマルガムの誘惑 」 | ル・モンド紙  | 社説 
  (*)は訳者による注釈  

夏のけだるい空気の中、再び国民の支持を取り戻し、他のスキャンダルを忘れさせるためにも、ちょっとした事件は最適だ。ニコラ・サルコジ氏は2002年以来継続してきたが失敗に終わろうとしていた、犯罪に対する“戦い”を再開した。2004年から2009年の間に、国内の傷害罪の立件数は16.3%上昇している。しかし今回、国家元首(*サルコジ)が新たに狙いを定めたのは、“ロマ民族および移動民族(放浪民族)の一部の者たちの振る舞い”だった。

治安問題においては、現実離れした理想主義を掲げるのは悪質というものだ。事件は、ロワール・エ・シェル地域のサンテニアン県(Saint-Aignan )で7月16日、17日に発生した。移動民族たちが憲兵隊とカーチェイスを繰り広げた末、移動民族のうち2名が重症を負い、そのうち1名が死亡した。(その報復として)放浪民族が憲兵隊本部を攻撃したことは許しがたく、彼らは厳罰に処せられるべきである。そして、彼ら民族に不名誉を蒙らせることなく、犯罪者のみを処罰するために、司法が存在するのだ。

サルコジの誤ちは、治安が悪化する中で犯罪を抑圧する“戦争”を開始したことではなく、意図的な混同を犯したことである。国家および社会の団結を保障すべき立場にある国家元首が、移動民族の一部の者たちによる責任を、移動民族全体になすりつけることは許されない。フランス本土で40万人以上いると見られる移動民族のうち、95%はフランス国籍を持っており、3分の2は定住者である。一方、少数民族であるロマ民族---元はヒンドゥー教徒にルーツを持つ人々---は、特にルーマニアとブルガリアを主とする東欧からの移民労働者であるだけではなく、欧州連合(EU)加盟国を国から国へと渡り歩く多民族だ。彼らが社会生活に馴染むためには、他のどの国にもまして2つのEU加盟国、すなわちルーマニアとブルガリアの協力が欠かせないのだが、両国はその責務を果たすつもりはないらしい。

フランス政府は、彼らを意図的に同一視〔混同〕することで、幻想と偏見の箱を開けてしまった。国民は彼らに対して、子供を誘拐する“ジプシー”、あるいは売春組織や物乞いを生業とする“ボヘミアン(放浪者)”といった恐ろしいイメージを再び蘇らせてしまった。ブリス・オルトフー内務大臣は、7月28日にエリゼ宮(*大統領府)で開かれた緊急閣僚会議で、「キャラバンを牽引する高級車(*注) 」について言及した。それこそ、移動民族たちを公の場で非難することを避けるく一方で、彼らに疑惑の烙印を押すようなものだ。

政府は“あらゆる圧力“という名の武器を選択した。”公序に反する行い“あるいは犯罪を犯したロマ民族は、ルーマニアあるいはブルガリアへ”直ちに強制送還“されるというのだ。今後3ヶ月以内に、不法占拠された空き地に設置されたキャンプあるいは建物600棟のうち、半分が取り壊されるという。「避難の地、フランス」協会によると、この政策は2002年より継続されているものだ。つまりこれは、「5千人以上の規模の町は移動民族を受け入れるための空き地を提供しなければならない」と定めた1990年施行法を適用した国家と地方自治体の明白な失敗を意味する。法を適用すれば、4万2千箇所の空き地が必要となるが、実際に提供された空き地は半分にも満たない。移動民族の子供たちを公立学校に受け入れることを拒否している自治体もある。他の市町村と同様に、確かに移動民族たちの中にも犯罪を犯す者はいるだろう。だがそれ故に、多くの移動民族は今でも相変わらず真の市民とは認められていないのが現状である。(終) 
( 拙訳 : 管理人 )


*注 : フランスの報道番組が、都会で物乞いをするジプシーの女性たちが、実際は早朝にメルセデス・ベンツに乗せられて「出勤」し、日中は貧しい格好で物乞いをし、夜になるとまたベンツが迎えに来る様子を隠しカメラで撮影し、放映した。ジプシーのごく一部の実態に過ぎないと思われるが、以来、ジプシーの実態は、実はマフィアのような集団であるというイメージをフランス国民に与えた。

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