*ル・モンド社説 -幻想から混沌へ-(後半) : イスラエル=レバノン紛争解決 ④

前回に引き続き,ル・モンド社主コロンバニ氏による社説の後半部分です。
あまりの長さに気が遠くなりかけ,3部に分けようかと迷ったけれど,
キリがないので,一気に訳してスッキリしたいと思います。(え?誰が?・・・ワタシガ,です。)
前置きはこの辺にして,さっさとGO!:



『アメリカの不在---Absence américaine---』

我々は,イスラエル=レバノン紛争の暴力への全体的逆行をあらかじめ予測してはいなかった(---たとえそれがジャック・シラクによって予言されていたとしても)。他の例にならって、地域的民主主義化をその名分に盛り込まざるを得なかった。しかし、カナの子供たちを犠牲にした爆弾が端的に示すような血塗られた袋小路から,中近東を救い出すためにはアメリカによる確実な約束、つまり”偉大なる中近東”プロジェクトを伴わなくてはならなかったのだ。

実際にブッシュはまず、イスラエル=パレスチナ紛争から手を引くことから着手した。より正確に言えば、ブッシュの政策はイスラエル政策に同調することにあるのだ。その代わり,ブッシュはアラブ界からアメリカへの信用を失ったのだ。前代未聞のアンチ・アメリカニズムを引き起こし、穏健派の同盟国(とくにエジプト、ヨルダン、湾岸諸国)を弱体化させてしまった。そして、イスラエルが望むと望まざるに関わらず、一方的な方法(レバノン南部からの撤退、その後のガザ自治区からの撤退)を選択したように、もはや”平和へのプロセス”など存在しないのだ。だが、先代アメリカ大統領ブッシュ(父)とビル・クリントンが飽くことなく始動させ続けた”平和へのプロセス”が非常に困難で絶望的であったとしても、少なくともそれは”無”を埋めるだけの機能は果たしていた---たとえ,そのプロセスが欠けたとたん、暴力が”無”を埋め尽くしたとは言え---。結局、”民主主義が先にありき”と”パレスチナ和平が先にありき”という議論について言えば、事実は後者の信望者に軍配を上げたように思われる。

アメリカ兵駐屯,という事実の外見に反して,ブッシュはイラク問題にそれほど関わってはいない。彼は架空のイラクに幻想を抱き,民主主義をイラクに植え付けるためには首を切れば済む,と思っていたのだ。自己の軍事力に陶酔し,ブッシュ政権は”サダムを倒した後”について何も準備していなかった。蔓延する市民戦争はその見通しの甘さがもたらした結果だ。ブッシュ(父)は1991年,クエートからイラク兵を撃退後,イラク政権の崩壊を恐れてバグダッドまでは侵攻しなかったが,ブッシュ・ジュニア(子)によって,イラク政権崩壊はほぼ達成されてしまった。ビンラデン率いるスンニー派過激主義との闘争という大義名分の下,アメリカの戦略はスンニー派過激勢力を弱体化し損なったばかりか,最終的にはイラクのシーア派過激勢力を増大させ,おかげで今やシーア派イラクの運命はイランの良心次第なのだ!

ところが,イラク政策におけるアメリカの失態のせいで,アフマディーネジャード( * 訳者注①)政権下のイランを阻む方法を選択している余地はない。イランは,そのイスラム主義と核兵器計画において,ヨーロッパと同様アメリカにとっても中心的戦略問題なのだ。ところが悲しいかな,アメリカはバクダッドにかかりきりで手が離せない。そして,レバノンの現状から分かるように,シーア派武装は組織の介入により,イランは今や恐るべき圧力を有しているのだ。

イスラエル戦略は以上の状況を踏まえた上で,ゲリラに直面する必要性を含む危険極まりない新展開下で,潜在的核兵器の脅威を抑止するためのより古典的な駆け引きの中で考慮すべきだ。カナの悲劇を忘れるわけではないが,それはつまり,ヨーロッパ世論はイスラエルを寄ってたかって非難するのを慎むべき,ということになろう。

なぜなら,このような危機的状況の対策は,1962年にキューバがソビエト製ミサイルを装備した時以来だからだ。ヒズボラを介して1万2千発から1万7千発ものミサイルをイランとシリアに貯蓄したレバノンは,イスラエルを射程距離内に収めた。しかも,そのイスラエルたるや,ただのイランではない。イスラエル政府の存在について非常に明確な態度を露わにしている( * 訳者注②),アフマディーネジャード政権下のイランなのだ。つまり,ユダヤ政府を脅かす脅威は現実に疑いようもなく存在する。だからこそ,ワシントンやカイロ,そしてヨーロッパからサウジアラビアに至るまで大多数の政府が,ヒズボラに対するイスラエルの攻撃が成功することを望んだのだ。それが今や,それらの政府自身がイスラエルの失敗を非難し,世論はイスラエルが市民の命を犠牲にしたことを弾劾している。

空爆の優位性にアメリカ的信条を持ち込んだだけではなく,世代効果という点でも,イスラエルが選択した方法は不適切である。いわゆる”シリコン・ヴァレー”となったイスラエルは,必然的にテクノロジー戦争に巻き込まれ,しかもそれはゲリラに対しては何の効力も持たないのだ。

『多国籍部隊』


過去にはシリアに占領され,今はヒズボラによって人間防御壁となり,イスラエルの攻撃下にある---レバノンが払ってきたこのような代償(イスラエルが敗北した場合には,同じような代償を払うこととになるのだが)を見て分かるように,各国に一刻も早く平和な暮らしが戻ることが日々,望まれている。イスラエルは,パレスチナ人にもレバノン人にも,イスラエル的な解決方法を押しつけはしないだろう。しかしイスラエルはかつてないほど,パレスチナやレバノンだけでなく,イスラエルを通じて標的にされているヨーロッパやアメリカからその安全を保証される必要があるのだ。

イスラエルへの非難は,”過度な”報復の責任にある。問題は,イスラエルが自国が生き延びるために,その過度な方法で報復する自己の能力に頼っている点だ。この”行き過ぎ”が,アラブ界において一部の最も過激な勢力を増大させ,彼らの憎しみが頂点に達する事態に陥っている。

だからこそ,あらゆる国際機関は,多国籍部隊の活動を---それが成功するものと信じて---呼びかけているのだ。我々は最良を期して,その成功を保証すべく他者と協力して準備しなければならない。

訳者注① : Mahmoud Ahmadinejad。2005年より,6代目イラン大統領に就任。保守強行派。

訳者注② :
アフマディーネジャードが,以下のような反イスラエル的な問題発言を繰り返していることを指す:2005年12月14日,イラン国営TVの生放送演説を通じて”ホロコースト神話”を非難し,ヨーロッパまたはアメリカ,カナダ,アラスカにイスラエルを建国すべきだ,とし,『 西欧はホロコースト神話をでっちあげ,それを神や宗教,預言者よりも上位に位置づけた。もし誰かが神の存在に懐疑的であっても非難されないが,もし誰かがホロコーストの信憑性を疑ったならば,シオニズム派の高官やシオニズム派に買収された各国政府たちは大声で罵り始めるだろう 』と述べた。※典拠 →

* レバノン=イスラエル紛争その5はコチラ → → →

3 Comments

shikahiko  

う~ん。ある程度頷ける社説ではあるけれど、
要するに民主主義を実現することを標榜しながら、
その実現のために武力を持って押しかけること自体が問題じゃないの?
大体アメリカは自らに敵対する勢力を叩き潰すためにその政敵を利用して軍事援助し、
今度はその政敵に手を焼くということを懲りもせずに繰る返している。
ビンラディンだって、アメリカが後押しして大きくした勢力じゃない。
お猿さんだって学べることを、何故この国の権力者は学ぼうとしないのだろうか?
パレスティナ・イスラエル問題だって、元をたどれば第2次大戦時のアメリカ・イギリスによる二股公約が原因だものね。バカみたい!

2006/08/20 (Sun) 11:20 | EDIT | REPLY |   

bebepiupiu*  

i-275 to: shikahikoさん

コロンバーニさんの社説,全部読んでくださったのですか~??
お疲れさまでしたi-236

>お猿さんだって学べることを、何故この国の権力者は学ぼうとしないのだろうか?

たぶん,権力者たちはじゅうぶんに自覚していると思うのです・・・。
でも,お互いの利益(国益というよりは私益?)を優先させたいがために,
学ぶつもりがないのでは・・・i-241

今回の紛争についてのフランス各紙の社説が,
結局,あくまでも”フランスの視点”に基づいての考察・分析になってしまうのは
ある程度仕方がないのかもしれませんね。

日本とはまた違った,ヨーロッパからの,そして
EUを牽引すべき立場にある(と思っている)国からの意見,というイミでは
興味深いのですけど・・・^-^;

2006/08/20 (Sun) 19:41 | EDIT | REPLY |   

shikahiko  

フランスのマスコミだもの、
勿論「フランスの視点」でものを見るのは当然のことだね。
日本のように「アメリカの視点」でしかものをみようとしない、
「アメリカの支店」のような政府やマスコミのほうが責任大きいよね(>_<)

2006/08/24 (Thu) 12:53 | EDIT | REPLY |   

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